pHショックやヒートショックとは何なのか?

私は買ってきた魚をすぐに水槽に入れてしまいます。

というのも、普段の水換えで一度に沢山水を換えても問題ないからです。

ただし、魚種によって対応を変えたり、水温とpHの差が大きいと判断した場合は水合わせや、飼育水の水質調整を行います。

買ってきたばかりの魚を水槽に入れて急に死んでしまった場合、以下の2点の可能性をまず疑います。

  • pHショック
  • ヒートショック

pHと水温の急変化は、どちらも魚の体内の恒常性(生命維持の為に体内を一定の環境に保つ性質)を大きく乱す恐れがあります。

  • 水質には様々なパラメーターがあるのに、どうして水温とpHだけが特別扱いされるのか?
  • どうして水合わせを行った方が安全なのか?

この2点の疑問ついて、参考文献を参照し、答えをまとめてみたいと思います。

恒常性の維持

生命活動は体内の様々な化学反応が制御されることで維持されています。

A+B→AB

のような合成反応が起こる場合、まずAとBが遭遇し、合成反応が起こるためのエネルギーが必要です。

そのため、AとBの密度や濃度、AとBの温度が影響します。

水温変化皮膚を伝わる
イオン濃度の変化エラを通して伝わる

飼育水の水温変化は皮膚を伝わり、容易に魚の体内まで伝わります。

また、魚はエラを通して飼育水とイオンの交換を行っていますが、

pHの変化というのも、要はH+の濃度変化ですので、エラを通して魚の体内に伝わって化学反応に影響を与えます。

魚は生命活動維持の為に、体内のイオン濃度は一定範囲内に維持し、水温の変化に対しては代謝や酵素の種類を変化させ、体内の秩序を守らなくてはなりません。

どうして水温とpHだけが特別扱いされるのか?

どうして水温とpHが特別に重要視されるのかというと、淡水魚の飼育環境において変化の大きい項目だからです。

水温は10度、20度の開きが真夏と真冬程の差となって魚に影響を与えますが、水道から出す水やパッキング袋の水はそのぐらい簡単に変動してしまいます。

pHつまりH+濃度については、その他のイオン濃度が魚を死に至らしめるほど大きく変動することは恐らく稀であり、魚の導入で問題になるのはH+だからだと考えています。

例えば、淡水魚を飼育している上で、塩分(Na+とCl-)が血中濃度を超えるまで急上昇することほとんどないでしょう。

硬度と呼ばれる、カルシウムやマグネシウムの濃度も、血中濃度を超えるほどに高濃度になることは稀なのだろうと思っています。(後日ちゃんと単位換算してみますm(__)m)

それに対してpHの場合、淡水の飼育水は経験上pH4~9ぐらいまでは振れ幅があり、魚の血中のpHは約7.8~8.0だそうです。

飼育水のH+濃度が血中よりも高いか低いかによって、魚が行わなくてはいけない適応の仕方は違ってきます。

血中よりもH+濃度が高い場合、過剰に流入してくるH+を血中から汲み出す働きが必要です。

血中よりもH+濃度が低い場合、過剰にH+が流出していく分、飼育水中から不足分を取り込まなくてはいけません(これについてはまだ文献を参照出来てません)。

どうして水合わせを行った方が安全なのか?

遺伝子の発現(遺伝情報がたんぱく質合成に反映されること)に時間がかかるからです。

それまでとは異なる環境に急に移動した場合、魚の体内はまだ新しい環境に適応するための準備をしていません。

体内の検知器(遺伝子発現を制御するたんぱく質など)が環境変化を検出し、環境適応のために必要なたんぱく質の合成が始まり、細胞の形態変化や機能変化などが起こります。

検知→遺伝子の発現→適応

この流れにいくらか時間が必要なので、新しい環境がどんな水質なのか、水合わせで魚の体に徐々に教えてあげることが効果的なのです。

まとめ

  • 水温とpHは魚の体内環境への影響が大きいため、急な変化に気を付ける必要がある。

「飼育水中のイオンはエラを通して魚体の血中に影響する」ということは知っておいた方がいいと思います。

逆に、水中を漂う砂塵やバクテリアはイオン原子よりもはるかに粒が大きいため、血中に直ちに影響することはないと考えてよいかと思います(不衛生な塵の巻き上げは病気の原因にはなりますが)。

沢山水を換えて大丈夫かな?と心配になったら、魚の血液への影響をイメージしてみると良いかもしれません。

参考文献

  1. 金子 豊二, 魚類におけるイオン調節と塩類細胞 様々なイオン環境への適応と塩類細胞の機能の多様性, 化学と生物 Vol. 35, No. 5, 1997, url: https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/35/5/35_5_376/_pdf
  2. 岩田 勝哉, 魚類の窒素代謝, 比較生理生化学 Vol. 15,No. 3, 1998, url: https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika1990/15/3/15_3_184/_pdf/-char/ja#:~:text=%E6%B0%B4%E4%B8%AD%E3%81%A7%E5%91%BC%E5%90%B8%E3%82%92%E8%A1%8C,%E6%8B%A1%E6%95%A3%E3%81%99%E3%82%8B1%2C2)%E3%80%82

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